靴職人が作る財布
ROLLING DUB TRIO(ローリングダブトリオ)"や”TOKYOSANDAL(東京サンダル)"のデザイナーである徳永勝也氏が提案するブランド-KATSUYA TOKUNAGA-。
全てのアイテムに世界各国から厳選した、高品質な材料を使用。
長年の経験と研究によって培われた知識と技術を用いて、手仕事による独自の美を生み出している。
そして、それらに深いリスペクトを感じさせるデザイン。
卓越した技能と創造力によって生まれる作品は、単なる機能的なアイテムを超えて、もはや芸術。
KATSUYA TOKUNAGAの製品は、世界中のクラフトマンの情熱と美学が込められているのだ。
そんなコレクションからL MULTI WALLET(L字マルチウォレット)がお目見え。
まず、箱から開けた際にふわっと香る高級感のある革の匂いがたまらない。
これを肴にしてお酒を飲みたくなるレベル。
重厚感と存在感が半端ない代物なのだが、手に持ってみるとびっくりするほど軽い。
そして、革が手に吸い付いてくる感じで馴染みが抜群に良い。
使用したレザーは、イギリスは1860年創業の老舗タンナー「THOMAS WARE & SONS LTD(トーマスウェア&サンズ)」社のブライドルレザー。
ブライドルレザーは主に馬具やベルト、財布といった高い強度を必要とし、長く使うことを想定した製品に用いられる。
耐久性と経年変化が大きな魅力で使い込むほどに深い味わいが生まれるのが特徴だ。
さらに、天然の油やグリースを染み込ませることで革が柔らかくなり、耐水性も向上する。
トーマスウェア社は世界的に見ても珍しい大規模なタンナー。
イギリスはブリストルに拠点を置いており、その敷地規模は約6,000坪(サッカーグラウンド5面とほぼ同じ!)。
彼らのブライドルレザーの特徴は、発注業社の希望によって表面の見栄えや風合いが異なること。
また、ブルームは多めのグリースが塗り込まれている場合が多く、一定の間保管した後は表面が真っ白になるほど。
それが堅牢性と耐水性をより強固なものとしており、道具として実際に使うところまでも考え抜いた彼らのクラフトマンシップには脱帽。
長く愛用できて、抜群の経年変化を見せてくれるだろうことは想像に難くない。
KATSUYA TOKUNAGAの製品には、彼らへのリスペクトもしっかり表れたディティールが随所に散りばめられている。
それを見ていくとしよう。
このL字マルチウォレットの最大のポイントは「靴職人が作る財布」ということ。
ベンズと呼ばれる靴底用の革を財布のコバに応用しているのだ。
すべて手仕事で長い時間をかけて作られたベンズは耐久性が高くしなやか。
使えば使うほど自分の手にしっとりと馴染み、美しい経年変化も楽しめる。
コバ部分の厚さはなんと3mm。
ここがこんなに分厚い財布はかつて見たことがない。
近年、財布は薄くて使いやすいことが強調されがちでセールスポイントにもよく使われるが、実際は薄さゆえに全然物が入らず、使いづらくてがっかりすることがある。
でも、これはあえて厚みを持たせることによって、これ以上は厚くならないことを主張している。
コバがもたらす厚みと計算された仕切りによる収納力もL字型財布の中では群を抜いている。
かつて自分もL字型の財布を愛用していたことがあったが、思ったほど収納力もなくてカードや小銭を何枚も入れようものならパンパンに膨らんで見てくれが悪くなる一方だった。
でも、この緻密な計算のもとに作られた厚さであれば、物を入れすぎて不恰好な状態になることもない。
内部の前面と後面に付けられた仕切り部分のラウンドした独特な形状は入れたものを見やすく、かつ取り出しやすくすることを考えたディティール。
なかなかL字型財布にはない仕様は、よく取り出す機会の多い免許証等の身分証明証やクレジットカードを入れておくのにちょうど良い。
また、外側につけられたコインケースによって、L字型財布の最大のデメリットと呼べるかもしれない小銭の取り出しにくさを解消。
内部中央のポケットに収納するのが一般的だと思うが、小銭を取り出す際にどの硬貨が何枚あるのか分かりにくくて会計時にもたついてしまった経験はないだろうか。
この財布にも中央部分にポケットがあり、本体と独立した縫製となっているため、普通よりは使いやすい。
しかし、そこからさらに外側にコインケースをつけることにより、小銭を内部に収納しなくてもよくなるため、格段に使いやすさが向上している。
コインケース部分にも片側にマチがつけられており、マルチな収納力を確保しながらも必要以上に膨らんで分厚くならないように工夫されている。
昨今のキャッシュレス化時代における、薄さは正義みたいな論調を一蹴するかのようなデザインは風刺が効いていながらも使い手のことを第一に考えた、革の本質を熟知したクラフトマンならではのプロダクト。
知れば知るほど、ずっと使い続けたくなる一生物と呼ぶにふさわしい逸品だ。