ラフに扱うくらいがちょうどいいのだ
2015秋冬シーズンよりスタートしたSEVEN BY SEVEN(セブン バイ セブン)。
ヴィンテージの知識と経験、そして、独自の感性による自由な世界が表現されているブランド。
その背景は、かつてゴールドラッシュに沸き、ヒッピーやビートニクといった思想文学を育み、ストリートをアートの舞台に押し上げたカルチャーの街としても知られるサンフランシスコにある。
ブランド名はサンフランシスコの面積が49平方マイル(1平方マイル=およそ2.5平方キロメートル)で、7マイル×7マイルに収まるから、地元の人たちが「セブン バイ セブン」と呼んでいたことに由来。
デザイナーの川上淳也氏は20代の大半をその街で過ごしながらヴィンテージのバイイングを経験。
日本のヴィンテージ業界ではその服自体の魅力より、希少であることが重要視されることが多い。
例えば、それがデニムパンツなら生産数が少ない大戦モデルはそれだけで価値が跳ね上がる。
ところが、彼のいた当時のサンフランシスコには、希少価値という概念が存在しない。
倉庫に積まれた古着は現地で生活する人々が実際に着ていたもので、生産背景による分類などされていなかったのだ。
だから彼のヴィンテージに対する見方はフラットで、世間一般的な目利きとは対照的だ。
90年代半ば、日本が空前のヴィンテージブームに沸いていてもその姿勢は変わらない。
当時は現地ディーラーだけでなく、生活のために日本で高く売れそうなヴィンテージ品を血眼になって探していた人が多かった。
でも、彼はそうしたムーブには見向きもしなかった。
彼の古着に対する根本はそのもの自体の価値にあり、それ以上でもそれ以下でもないからだ。
何かをしようとするとき、人は知識のある誰かに教えを請いたり、マニュアルや前例を踏襲したりする。
そうして固定概念にとらわれていく。
だが、自身の感覚を頼りに古着を選び続けてきた川上氏のフィルターによって生み出される洋服の数々は、他のどのブランドとも違う。
どこか懐かしさを覚えながらもコンテンポラリーでいて独創的な雰囲気を漂わせる唯一無二の存在だ。
決してヴィンテージの焼き直しではない、そのモノが持つディティールや素材に対するリスペクトから生まれる新たな価値。
SEVEN BY SEVENは、我々にファッションが持つ奥深さや美しさを再認識させてくれるブランドだ。
非常に存在感のあるトートバッグはヴィンテージのツールバッグ(ラインマンと呼ばれる電話線工事の作業員に支給されていたトートタイプのバッグ)から着想を得たデザイン。
ヴィンテージでは、アメリカの電話会社「BELL SYSTEM(ベルシステム)」のものが非常に有名。
一般には基本出回らない希少性と無骨なデザイン性からマニアックな人気を誇るアイテムだ。
ラインマンは職業上、重たい工具入れや図面等の書類を持ち歩かなければならなかったため、ツールバッグに求められたのは耐久性と収納力。
だから、ツールバッグは大きめでマチも広め、かつ丈夫な厚手のコットンキャンバス地を使い、さらに負荷がかかる場所や生地が幾重にも折り重なる部分にはリベットを打ち込んで補強しているほど抜かりがない。
このようなディティールを再現したバッグは数多いが、現代で僕らが使うにはその重厚感や重量ゆえに非常に使いづらい。
エルエルビーンの名作、ボートアンドトートも当初は氷の塊を運ぶために作られただけあって重みはあるが、これはそれ以上だ。
でも、このバッグはそうしたデメリットを覆す。
一番のポイントは軽さ。
レザー素材を使って、打ち込みのリベット補強も施されていれば重たいと思うのが普通。
だが、実際持ってみるとびっくりするほど軽いことに驚く。
それもレザーの重厚感や上質さを保った上だから、なおさら。
手持ち主体のバッグでもこれなら手が辛くなることも少ない。
使用したレザーは耐水性が高く、きめ細かい起毛感が特徴の「SUEDE SPLIT LEATHER(スエードスプリットレザー)」。
床革(革を作る際に残った本革ではない部分)の表面にポリウレタン等の樹脂を塗って、強度を高める加工を施した特殊なレザーだ。
革本来の柔らかさはそのままに、耐久性と耐水性も兼ね備えているため、ソファや自動車の内装に使われることも多い。
普通のレザーであれば、油分が多く含まれていて耐久性はあっても雨に当たると雨染みがついてしまうことがあるので、天候・季節関係なく使うのはなかなか難しい。
だが、このレザーは多少の雨くらいなら余裕で弾く撥水性があるため、神経質になる必要も全くない。
固さや重さが出ないから雰囲気も自然。
触ってみると程よい厚みはありながら、しっとりとしていて柔らかい。ずっと触れていたくなるような心地よさだ。
本革やキャンバス生地とは違う、角がないくたっとした雰囲気がクセになる。
収納力はとにかく抜群で大きめの荷物も問題なく入るし、ちょっとした小旅行ならこのバッグひとつで事足りる。
底面のレザーは別生地で厚手のものが使われているし、折り返しもリベットで頑丈に補強されているからガシガシ使っても安心。
でもこのバッグの良さを活かすのであれば、あまり深く考えずにガサっと突っ込んでラフに持ち歩くくらいがカッコいい。
背中にかけてキザに街を闊歩するのもこれならありだ。
むしろ、小荷物の時に出るシワ感や余り感がカッコ良すぎて、あまり物を入れたくなくなってしまうかも。
秋冬のクラシックな装いの引き立て役はもちろんのこと、24SSランウェイで幾度と登場したライトな装いに変化をつけるアイテムとして春夏スタイルにも難なく馴染んでくれる。
スプリットレザーの持つ特性を存分に活かし、ヴィンテージにはない現代の僕らに寄り添った質感や雰囲気を纏ったトートバッグ。
当時のラインマンにとっての最適解を現代の僕らにとっての最適解へと生まれ変わらせた、まさにマスターピースと言える逸品だ。