パジャマだけど、ただのパジャマじゃない
90年代に一大ムーブメントを巻き起こした古着。主役はリーバイスなどのいわゆる”アメリカンヴィンテージ”が中心。
ミリタリーも人気が高く、映画『トップガン』の大ヒットによるMA-1ブームがその最たる例(劇中のトム・クルーズが実際に着用していたのはMA-1の後継のCWU45PのサマータイプモデルであるCWU36PとレザーのG-1ジャケットだったのだが、なぜかMA-1ということになってしまっていた)。
古着とスニーカー好きの間で知らない者はおそらくいない雑誌『ブーン』の影響も手伝って、”うんちく”のあるヴィンテージ至上主義みたいな風潮があった。
ここ数年で古着ブームが再燃したけど、昔と違って今は語るというよりはデザインや一点モノというところに重きを置いているように思える。
それはそれで良い楽しみ方。だけど、古着の楽しさってやっぱり”語れる”ところにあるのもまた事実。
今回紹介するのは1940年代の第二次世界大戦真っ只中に作られたアメリカ軍のパジャマパンツ。
まさに”語れる”一本なので、ぜひご覧いただきたい。
このパジャマパンツはアメリカ軍の主にメディカル関係で使われていたもの。
メディカル系のパジャマはもう少し後の50年代頃のパジャマセットは比較的見かけやすいけど、大戦中のものはほとんど市場に出回っていない。
戦時中の物資統制の渦中にある時代で、しかも使用用途が限られるというのも大きいのかもしれない。
古着もミリタリーも好きな僕だけど、これを見たのは今回が初めて。
大戦中にはこんな物もあったのかぁと新たな発見があってワクワクしたのを覚えている。
使用生地は柔らかく起毛したコットンフランネル。
起毛しているといっても比較的薄い生地感なので、通年穿くことが可能。
杢感のあるブルーの色味はまるでシャンブレーのよう。今の時代にはないヴィンテージらしさを感じさせる。
パジャマとして使われていただけあって、穿き心地はストレスフリーで気持ち良く、最高。
着用して洗いを重ねていくにつれて更に生地も柔らかくなり、風合いも増してゆく。
ウェスト部分はドローコードで調整するシンプル仕様。
極太ワイドなストレートシルエットで、股上は浅め。
キュッと絞ればシルエットに緩急も付けられるのはグッド。
ゆったりリラックスな雰囲気が今っぽくてちょうどいい。
パジャマとして使うには少々勿体無いけど、夏の暑い夜にこれを穿いてまったり過ごすというのは贅沢で憧れる過ごし方だなと思う。
もちろん街着としても大いに活躍してくれる。
夏の暑い日にサラッと履けて、涼しげなカラーも良し。
シンプルなカットソーと合わせても良いけど、少し派手めなシャツやオーバーサイズのTシャツを合わせるとグッと雰囲気が出る。
足元はボリューム感のあるハイテクスニーカーやサンダルなんかとも相性が良さそう。
おまけに後ろ部分に付いている”ミルスペック”タグ。
ミリタリー好きじゃなくても、なんとなく耳にしたことがあるかもしれないこの単語。
正確には「ミリタリースペシフィケーション」の略語で、軍の仕様書を指す。
このミルスペックが及ぶ範囲はおよそ軍が使用するモノのすべて。
ジャケットなどの装備品はもちろん、テーブルやロッカー、寝袋、食事、カップ、ペンの一本から爆弾にまで至る。
それを構成する素材、型地、機能もミルスペックによって厳密に規定されており、この厳しい基準をクリアしたものだけが軍への納入を許されるのだ。
規格を統一することでさまざまなメーカーが介在しても、同じ物を供給できるというのが大きなメリット。
でも戦時中のような物資不足の中においては、たまにイレギュラーな珍品があったりもして、本来の仕様にはないディティールはマニア心をくすぐる。
さて、それを知った上でこのパジャマパンツを見てみるとコントラクター(供給元のメーカー)にコントラクトナンバー、スペックナンバー、ストックナンバー、そして1942年の12月16日に納品されていることまで読み取れる。
正直このタグがちゃんと残っていて、詳細に読み取れるってだけでも相当レア。
そして、今回のものはなんと全て”デッドストック”
デッドストックとは誰にも使用されることなく、そのまま当時の状態で眠っていた未使用品のこと。
ヴィンテージ古着においてはそれだけで価値がある代物。
80年以上も前の物が未使用のまま現代に残っていて、それを一から自分が着れるのってよく考えるとめちゃくちゃすごい。
サイズはSMALLサイズとMEDIUMサイズの二種類。
ミリタリー古着において小さいサイズは希少。
元々がゆったりとしたサイズ感なので、幅広い人に合いやすい。
知らなくても楽しめるけど、知っているとより楽しめて奥がとっても深いのがミリタリー古着の世界。
古着好きな人はもちろん、普段古着を着ない人にも是非着てもらいたい。
着ると思わず語りたくなる一本だ。